
単行本にして3巻に跨る大長編「国境の街カルッセル編」がついに完結!
第30話「Merry…」から第34話「Called Vitter」までを収録、長きに渡った物語のトリを飾るに相応しく、分厚く読み応えのある一冊となっております。
いやー、それにしても今回のカルッセル編におけるストーリーテリングの巧みさときたら!
最初は何が敵なのかすら判らないエスピオナージ・サスペンスから入って、やがて徐々に解き明かされて行く災厄の正体、そして謀略の狭間に消えた不器用な男女の悲恋に、いまだ旧弊を抱える帝国と躍進めざましい共和国との対比、そして伍長の心身を蝕む「命を無視された兵隊」の禍々しい影に、危機を経て更に強くなるアリス少尉と伍長の絆。
幾重ものストーリーラインが重層的に絡み合い、やがて大きなうねりとなって1つのテーマへと収束されていく、その手練手管の鮮やかさ!
登場人物たちはいずれも互いの思想や行動に影響を与え合い、より希望に満ちた明日へと歩みだす。
誰が欠けても到達しえなかった未来、気づけなかった想い。
起こった悲劇は変えられず、犯した罪は消えずとも、明日はより良くできるはず。
このカルッセル編、改めて最初から通読してみると、より感慨深く胸に迫るものがあります。
いや、それにしても、本当に味のある男になったもんだなぁ、「冷淡なヴィッター」!
今回の描き下ろしインターバルで加筆されたラストシーンの独白(しかも冒頭のフランシア伍長の独白シーンと対になっている!)がまた、切なくも暖かくていいんだ、これが。
あと前巻予告より待望の陸情2課長のラインベルカ少佐は、毒蛇もかくやのプリティーフェイスに、かなりステキな人生観の持ち主のようで、これまた流石っつーか、なんつーか。
さて、今後どのように物語に絡んできますことやら?
アリス少尉と伍長も、改めて互いの絆の在り方を見つめなおす契機ともなった、今回の事件。
ですが2人が背負った十字架はあまりに重く、その行く先はあまりに暗く。
2人の行く手にはまだまだ数多の試練が待ち構えていること必定。
この先どのような未来が待っているのか、我々読者もハラハラと見守っていきたいところです。

ちなみに前回と今回の表紙に隠された、とある仕掛け。
それぞれ単体では遠くを見つめているように見えるヴィッター少尉とフランシア伍長。
ですが、互いの瞳の先にあったものは……いやはや、なんとも粋な計らいで。